相続によって不動産を引き継いだものの、「忙しくて手がつけられない」「とりあえずそのままにしている」というケースは少なくありません。しかし、不動産の放置は“資産価値の低下”だけではなく、“税金の増加”や“管理責任の発生”など、後から大きな負担となるリスクを抱えています。このコラムでは、相続不動産を放置した場合に起こり得る問題を総合的に解説し、後悔しないための対処法までわかりやすくまとめました。
■1 相続不動産の「放置」はなぜ危険なのか?
相続で引き継いだ不動産は、住まない・使わない状態でも、所有しているだけで責任と負担が生じます。実は、多くのトラブルは“何もしないこと”から発生します。
不動産は時間が経つほど老朽化し、修繕費が増え、結果的に売却価格が下がってしまうため、放置は最も避けるべき選択肢と言えます。
■2 【リスク①】固定資産税・都市計画税が増える可能性がある
空き家対策特別措置法の改正により、管理不十分な空き家は「特定空家」に指定されると、固定資産税の軽減措置が外れ、税額が最大6倍になることがあります。
たとえば、以下のような状態は“特定空家”に該当する可能性があります。
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外壁や屋根が崩れかけている
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害虫が発生している
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長期間草木が伸び放題
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ゴミが散乱し、近隣に悪臭や景観悪化を与えている
特定空家となると、自治体から改善指導が入り、それでも改善されない場合は 最大6倍の税負担+行政代執行による解体費用請求 が発生する可能性もあります。
■3 【リスク②】資産価値の低下が進む
不動産は、メンテナンスをしなければ価値が低下していきます。特に空き家は劣化が早く、1年放置しただけでも以下の問題が進行します。
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湿気によるカビ発生
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害虫・害獣の侵入
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給排水管の劣化
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内部の腐食
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雨漏りや外壁のひび割れ
建物が傷むほど修繕費は高額になり、最悪の場合は“解体するしかない状態”になることもあります。
さらに、周囲の環境悪化を招き、近隣住民からクレームが入ることも珍しくありません。
■4 【リスク③】近隣トラブル・責任問題につながる
空き家トラブルの中でも、最も深刻なのが“近隣への迷惑”です。
放置不動産によってよく起こるトラブルは以下のとおりです。
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雑草が敷地外にはみ出し苦情につながる
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不法投棄・不審者侵入を招く
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倒木・屋根材落下により物損事故が発生
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火災リスクが高くなる
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台風・地震での倒壊恐れによる近隣への被害
場合によっては、所有者が損害賠償責任 を負うこともあります。
■5 【リスク④】相続人同士の対立が起こる
不動産を放置すると、管理・費用負担・売却に関する意見の違いが積み重なり、相続人同士の対立が起きやすくなります。
典型的なトラブルとしては以下のものがあります。
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「誰が管理するのか」で揉める
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固定資産税の負担割合が決まらない
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売りたい人・売りたくない人で意見が割れる
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放置時間が長いほど売却額が下がり、責任の押し付け合いが生じる
長く放置すればするほど、相続人間の合意形成が難しくなるのが現実です。
■6 【リスク⑤】売却したい時に“売れない不動産”になる
老朽化が著しい空き家は、以下の理由で売れなくなるケースがあります。
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建物の損傷が大きく、買主がつかない
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旗竿地など、もともと売却が難しい形状が影響
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接道義務を満たしておらず再建築不可
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建物の内部が荒れ、解体費が高くつく
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市場価格が下落し、相続時より大幅に価値が下がる
結果として、「解体+整地」しなければ売れない状況に陥り、数百万円単位の費用がかかることもあります。
■7 放置せずに「価値を守る」ための3つの対策
不動産を放置しないためには、以下の対策が有効です。
●(1)早期に専門家へ相談する
相続不動産の状況を把握し、売却・賃貸・管理のどの方向性が最も適しているかを判断します。
税金や法律の問題も含め、プロの視点で分析することが重要です。
●(2)定期的に管理・メンテナンスを行う
最低限の管理を行うだけでも、資産価値の低下をかなり防げます。
例)
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年2~3回の換気
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雨漏り・外壁の点検
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雑草処理
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郵便物の回収
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簡単な清掃
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害虫予防対策
定期管理を不動産会社に委託することも可能です。
●(3)売却または活用方法を決める
相続不動産の価値は「放置した時間」に比例して減少します。
早めに判断することで資産価値を守り、不要な支出を回避できます。
■8 まとめ:放置は“損失が積み重なるだけ”。早めの判断が資産を守る
相続不動産を放置することは、「知らないうちに損を積み重ねている」状態です。税金は増え、修繕費は膨らみ、価値は下がり、最終的には家族にも負担がかかります。
相続は突然訪れる出来事ですが、放置すると確実に損失につながります。大切な資産を守るためには、早期に専門家に相談し、売却・賃貸・活用のいずれかを検討することが最も重要です。
不動産は“時間”が最大のリスクでもあり、最大の味方にもなります。
適切な判断で、相続不動産を家族にとって価値ある資産として活かしていきましょう。